2012年5月1日火曜日

血栓性疾患: 血液学および腫瘍学: メルクマニュアル18版 日本語版


健康な人では,凝固促進の力と凝固阻止および線溶の力との間で止血のバランスがとれている(止血を参照 )。多くの遺伝性,後天性,および環境因子により,そのバランスが凝固の方向に傾き,その結果,血栓が静脈に(例,深部静脈血栓[DVT]),動脈に(例,心筋梗塞,虚血性脳卒中)または心腔内に異常に形成される。血栓は,形成された部位で血液の流れを妨げることもあれば,分離して塞栓を形成し遠く離れた血管をふさぐ場合(例,肺塞栓症,脳卒中)もある。

病因

静脈血栓塞栓症の傾向を増大させる遺伝学的な異常には,活性化プロテインC(APC)に対する抵抗性を生じる第Ⅴ因子Leiden変異;プロトロンビン20210遺伝子変異;およびプロテインC,プロテインS,プロテインZ,またはアンチトロンビン欠乏症がある。

静脈および動脈血栓症の素因となる後天性の異常には,ヘパリン誘発性血小板減少症/血栓症,抗リン脂質抗体の存在,および(可能性として)葉酸,ビタミンB12,ビタミンB6欠乏症の結果起こる高ホモシステイン血症がある。

その他の疾患および環境因子も,上述の遺伝子異常のいずれかが併存している場合は特に,血栓のリスクを増加させうる。

手術や,整形外科的なあるいは麻痺による寝たきり状態に関連して起こるうっ血;心不全;妊娠;肥満は,静脈血栓のリスクを高める。外傷または手術による組織の損傷は,組織因子を血液に暴露させ静脈血栓のリスクを高める。

腫瘍細胞,特に前骨髄球性白血病細胞,および肺,乳腺,前立腺および消化管の腫瘍は静脈血栓症の素因となる。腫瘍細胞は,第Ⅹ因子活性化プロテアーゼを分泌することで,あるいは露出した細胞膜表面に組織因子を発現することで,またはその両方の機序で血液凝固を活性化する。


疲労倦怠感

単球およびマクロファージに対する組織因子の暴露亢進が起こる敗血症など重症の感染症は,静脈血栓のリスクを高める。

エストロゲンを含んでいる経口避妊薬は動脈および静脈血栓塞栓のリスクを増加させる;しかしながら,近年の低用量レジメンではリスクは低い。このような経口避妊薬を服用中に静脈血栓塞栓を呈する患者には,素因をもたらす遺伝子異常がしばしば併存する。

アテローム性動脈硬化症では,特に既存の狭窄部位に動脈性血栓ができやすい。アテローム硬化性のプラークが破裂し組織因子に富んだプラークの内容物が血液に暴露して,その結果,局所的な血小板の粘着/凝集,血液凝固因子活性化,ひいては血栓症につながる。

診断と治療

血栓の診断と治療は,血栓の部位ごとに本書の別の個所に要約してある。血栓をもたらす素因を常に考慮する。症例によっては,病態は臨床的に明白である(例,手術あるいは外傷直後,長期にわたる寝たきり状態,悪性腫瘍,全身性のアテローム性動脈硬化症)。はっきりとした素因が見当たらない場合,さらに検査を続けるべき患者は,静脈血栓症の家族歴,静脈血栓の2回以上の既往,50歳未満での心筋梗塞や虚血性脳卒中の既往,または異常な部位での静脈血栓(例,海綿静脈洞,腸間膜静脈)の既往をもつ患者である。自発的な深部静脈血栓の半数に及ぶ患者が,遺伝的素因を有する。

先天性の素因を調べるには,血漿中の天然の抗凝固分子活性の機能測定,および特定の遺伝子異常の検査などを行う。検査は一連のスクリーニング検査から始め,続いて(必要であれば)特定のアッセイを用いる。

活性化プロテインC抵抗性第Ⅴ因子


減量サプリメントのディスカッションボード

APCは第Ⅴa因子および第Ⅷa因子を分解し,その結果血液凝固を阻害する。第Ⅴ因子に起こるいずれの変異も,APCによる不活性化に対する抵抗性を第Ⅴ因子に生じさせ,血栓症の傾向を増大させる。第Ⅴ因子Leidenはこの中で最もよくみられる変異である。ホモ接合体の変異はヘテロ接合体の変異よりも血栓のリスクを高める。単一遺伝子病としての第Ⅴ因子Leidenの有病率はヨーロッパ系の人種では約5%であるが,アジアまたはアフリカ系の人種にはほとんど起こらない。第Ⅴ因子Leidenは特発性静脈血栓症のある患者の20〜60%に存在する。診断は,血漿凝固機能測定(ヘビ毒によって活性化されたプロテインCの存在下で患者の血漿PTTが延長しない)および第Ⅴ因子遺伝子の分子解析に基づいて行う。治療が必要であればヘパリン,� �いてワルファリンによる抗凝固療法を行う。

プロテインC欠乏症

APCは第Ⅴa因子および第Ⅷa因子を分解することから,天然の血漿抗凝固因子である。遺伝的または後天的原因によるプロテインCの減少は静脈血栓を増進させる。ヘテロ接合体の血漿プロテインC欠乏症の有病率は0.2〜0.5%で,この異常をもつ人の75%が静脈血栓塞栓症に罹患する(50歳までに50%)。ホモ接合体または複合ヘテロ接合体の欠乏症は新生児電撃性紫斑病,つまり重症の新生児播種性血管内凝固症候群を引き起こす。後天性のプロテインCの減少は,肝疾患またはDICをもつ患者,癌の化学療法中(L-アスパラギナーゼ投与を含む)およびワルファリン療法中の患者に起こる。診断は抗原性および血漿凝固機能測定(プロテインC欠乏正常血漿を使い,ヘビ毒を含む患者の血漿を加えた結果起こる,正常な血漿のPTTの延長の度合い)に� �づく。症状のある血栓症の患者には,ヘパリンまたは低分子量へパリンを用いた抗凝固療法,続いて,ワルファリンを用いた抗凝固療法を行う;ビタミンK拮抗薬であるワルファリンを初期治療に用いると,ビタミンK依存性のほとんどの凝固因子が治療の目的にかなう減少をみせる前に,ビタミンK依存性のプロテインCの濃度を低下させ,ときに血栓性皮膚梗塞を引き起こす。新生児電撃性紫斑症は,(正常血漿または精製濃縮物を用いた)プロテインC補充療法およびヘパリンを用いた抗凝固療法を行わない限り致死的である。

プロテインS欠乏症


サイコ警告となる痛み

プロテインSはAPCによる第Ⅴa因子および第Ⅷa因子切断における補助因子である。ヘテロ接合体の血漿プロテインS欠乏症は静脈血栓症の素因となり,遺伝の様式,有病率,臨床検査,治療,および予防措置はプロテインC欠乏症と同様である。ホモ接合体のプロテインS欠乏症は新生児電撃性紫斑症を起こす可能性があるが,この新生児電撃性紫斑症はプロテインCのホモ接合体欠乏症によるものと臨床的に鑑別がつかない。プロテインS(およびプロテインC)の後天性欠乏症はDICおよびワルファリン療法中,およびL-アスパラギナーゼ投与後に発現する。診断は,総または遊離型血漿プロテインSの抗原性測定に基づいて行う。(遊離型プロテインSはC4結合蛋白に結合していない形である。)

プロテインZ欠乏症

プロテインZもやはりビタミンK依存性の蛋白で,血漿プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビターと複合体を形成することで,補助因子として機能し血液凝固を下方制御する。この複合体は第Ⅹa因子を不活性化する。血栓症の病態生理学および胎児喪失におけるプロテインZ欠乏症の影響については意見が定まっていない。

アンチトロンビン欠乏症

アンチトロンビンはトロンビンおよび第Ⅹa,Ⅸa,およびⅩⅠa因子を抑制する蛋白である。ヘテロ接合体の血漿アンチトロンビン欠乏症は約0.2〜0.4%の有病率で,そのうち約半数が静脈血栓症を発症する。ホモ接合体欠乏症は子宮内の胎児にとって致死的と思われる。後天性欠乏症はDIC,肝疾患,またはネフローゼ症候群を有する患者,およびヘパリンまたはL-アスパラギナーゼ療法中に起こる。臨床検査ではヘパリン存在下で血漿によるトロンビンの抑制を定量する。静脈血栓塞栓症の予防には経口ワルファリンを用いる。

プロトロンビン20210遺伝子変異

プロトロンビン遺伝子の変異は血漿プロトロンビン濃度の上昇を招き静脈血栓塞栓のリスクを高める。

抗リン脂質抗体症候群

(抗カルジオリピン抗体;ループス抗凝固因子)


抗リン脂質抗体症候群は1つ以上の蛋白(例,β2グリコプロテインⅠ,プロトロンビン,アネキシン)に対する様々な自己免疫抗体に関連した血栓症および妊娠においては胎児死亡から成る病態である。これらの蛋白は,正常な状態ではリン脂質膜の成分に結合し,過剰な凝固活性からその成分を守る。自己抗体はその保護的な蛋白に取って代わることで内皮細胞表面を凝血促進作用のあるものに変えて動脈または静脈血栓症の原因となる。In vitroの凝固検査では逆に延長する場合があるが,その理由は,抗蛋白/リン脂質抗体は,検査を開始するために血漿に加えられたリン脂質成分の上では凝固因子の集合および活性化を妨げるからである。ループス抗凝固因子は蛋白-リン脂質複合体に結合する抗リン脂質自己抗体である。ループス抗凝固因子はSLE患者で初めて認められたが,今はその自己抗体をもつ患者の中でSLE患者が占める割合は小さい。ヘパリン,ワルファリン,およびアスピリンが予防および治療に使われている。

高ホモシステイン血症

高ホモシステイン血症は動脈血栓症および静脈血栓塞栓症の素因となりうるが,原因はおそらく血管内皮細胞の損傷と考えられる。ホモ接合体のシスタチオニンβシンターゼ欠乏症では血漿ホモシステイン濃度は10倍以上に上昇する。ヘテロ接合体欠乏症,およびその他の葉酸の代謝異常(メチルテトラヒドロ葉酸脱水素酵素欠乏症など)では濃度の上昇は軽度である。しかしながら,高ホモシステイン血症の最も一般的な原因は後天性の葉酸,ビタミンB12またはビタミンB6欠乏症である。診断は血漿ホモシステイン濃度測定により行う。ホモシステイン濃度は,葉酸,ビタミンB12,またはビタミンB6(ピリドキシン)を含む食品を単独あるいは組み合わせて栄養補充することで正常に戻しうるが,この療法が動脈や静脈の血栓のリスクを減らすか否かについては明らかでない。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月



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