目次
§1 行動療法への理解を広める
§2 家族のための行動療法とは
§3 原井宏明先生のお話から
§4 岡嶋美代先生のお話から
§5 第6回市民フォーラム
§1 行動療法への理解を広める これまでのコラムでも何度か紹介していますが、OCDの会は、強迫性障害の患者と家族のためのサポートグループです。熊本県の菊池病院で行動療法を行って回復した患者さんを中心に始まり、現在は熊本、名古屋、東京、広島に会がおかれ、活動を行っています(⇒OCDコラム第10回、11回、12回、37回、58回参照)。
OCDの治療は、薬物療法と行動療法(または認知行動療法)があり、それぞれを単独で行ったり、組み合わせたりしていますが、行動療法を行う治療者は少ないのが現状です。そのため、行動療法の実績が豊富な一部の病院やクリニックに患者さんが集中する現象も出てきています。
こうした現状のなかで、同会では、患者・家族だけでなく、医療従事者を対象にした行動療法の研修プログラムも行っています。2007年から、家族や患者のための行動療法基礎講座を設けたところ、医療従事者にも好評を得ているとのことで、今回は、「家族のための行動療法基礎講座」を、より具体的な内容で企画したそうです。
プログラムは下記のように、講演から実践的ワークショップ、症例検討会まで、患者・家族、学生、医療従事者が、具体的にOCDの治療について学べる内容でした。名古屋駅から近い愛知県産業労働センター内の会場は満席となり、2日間にわたり、全国から約250名の方が参加し、熱心に聴講しました。
開会にあたり、名古屋OCDの会世話人の藍さん(ハンドルネーム)より、「3年前、名古屋には患者さんや家族が集る場がなかった。現在は、交流の場が各地に広がりを見せている。OCDの治療を受けている方、受けようとしている方の意識が高まっているように感じる。そんななか、研修会を通して、より多くの方が病気のとわられから自由になることを願っている」と挨拶がありました。
§2 家族のための行動療法とは
なかには、「なぜ、家族が行動療法を学ぶ必要があるの? 専門家にまかせておけばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、OCDの治療では、家族の対応や役割が、とても大切なことがあります。それは、一緒に生活している家族を強迫行為に巻き込んでしまうなど、家族が症状に関係しているケースが少なくないからです。なかには、日常生活に支障がでる場合もあります。
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また、強迫行為は、「できればこんなことを何時間もしていたくはない」と違和感を覚えながら、やむにやまれずやっているものです。本人も苦しいのです。その苦しさ、つらさを、身近な家族にぶつけてしまうこともあるでしょう。そんなときに、家族はどのように対応していけばよいのでしょうか。
今回の基礎講座は、家族が本人を治療へ向かうように動機づけをしたり、症状の悪化を防ぐために有効なコミュニケーションの技術を具体的に学べる内容でした。
§3 原井宏明先生のお話から
基礎講座(1) 大切な人を立ち直らせる ―小言でも懇願でも脅迫でもない別のやり方―
講師: 原井宏明先生(なごやメンタルクリニック院長)
ビデオの例では、夫が強迫性障害で薬物療法を受けていますが、5年たっても治りません。妻は行動療法を受けるように勧めたいのですが、夫はしぶっています。古いやり方で接していては、妻が「受けてみたら?」と言えば言うほど、夫は「嫌だ、嫌なことはやりたくない」と、もともとあった受けたくないという気持ちが強まっていきます。このように、悪循環になるやり方は避けなければなりません。
家族は相手に変わってほしいという気持ちがあれば、どうしても「なんとかしたら」と言いたくなるものですが、そういう気持ちを抑え、言わないようにします。この場合、夫の「行動療法は受けたくない」という言葉に対し、妻は「行動療法は受けたくないんだ。嫌なことはやりたくないんだね」と、相手の気持ちを認めて、言葉を返します。相手の言葉や気持ちに共感し、客観的にまとめたり、強めて言い返したりします。そして、相手から「でも本当はこうなんだけど」という展開が出るのを、辛抱強く待つのです。
このようなやり方は「動機づけ面接」という援助の技法です。援助というと、手を差し伸べて何かをしてあげることのように思われますが、そうではなく、本人が抱えている矛盾を明らかにしていき、それを問題と認識できるようにし、矛盾を解消する方向で行動を起こすように導く方法です。原井先生によれば、2日間ぐらいの研修で、一般の家族でも身につけることができるとのことです。
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講演の後、子どもが不登校になったお母さんから、「家族で決めたルールが守れないときはどう対処したらいいか」との質問がありました。原井先生の答えは、「それは誰が決めたルールなのか。本人が作ったルールでないと、守れない。そこからやりましょう」というものでした。「人から一方的に与えられて、破ったときの罰だけがあるルールは守れない。守ったときのごほうびがあってほしい」とのことでした。
「本人がうまくいっていないときに注目するのでなく、うまくいっているときに注目すると、手がかりが見えてくる。毎日一緒にいると見逃しがちになるものを、今日はこうだった、とみつめることで、家族が自分の行動を見直すきっかけにもなる」とのお話も印象的でした。
§4 岡嶋美代先生のお話から
基礎講座(2) 家族にもできる強迫性障害の行動療法
講師: 岡嶋美代先生(なごやメンタルクリニック心理士)
心配して声をかけたのに、「うるさい、バカ!」などと暴言を吐かれたりしたら、家族はショックを受けてしまいます。岡嶋先生は、そうした緊迫した家族同士のやりとりのなかでも、関係性をうまく保つにはどうしたらいいかを、具体的に話されました。
「バッティング練習だと思ってください。ピッチャーはいろんな球を投げてきます。それを、ホームランでなくてもいいから、さらっと返してあげる。叱責ではない言葉で返すことです」
子 「もう俺は子どもじゃないんだ、ほっといてくれ」
親 「そう、大きくなってくれたんだね、ありがとう」
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このように、親もカッカして対応しがちなところを抑え、真に受けないで、徹底的にすり抜けることが大事だそうです。しかし、それはふざけることとは違います。
「言葉の裏にある本当の気持ち、その子の本当の苦しさを理解してあげてください。そして、相手の気持ちを言葉にして返してあげるようにします」と岡嶋先生。以下はそんな会話の例です。
子 「これを触ったら、一回だけ手を洗ってもいい?」
親 「それはダメ」
子 「でも、洗わないと無理」
親 「本当はどうなりたいの?」
子 「本当は何でも触れるようになりたい。でもまだ今は、これを触ったら他のものが汚れてしまうから、とり返しがつかなくなる」
親 「またいっぱい洗ってしまうのが嫌なんだね」
子 「これがついちゃったら洗っても落ちない気がするから、まだできない。怖い。
先にどうなるかわからないから心配」
親 「心配で、怖いんだね」
子 「洗いたい!」
親 「洗ったら何とかなる感じ?」
子 「何ともならない。変わらない。わかってるけど、できない」
親 「手を洗おうが、汚くないと考えようが、何も変わらないってわかっているんだ……」
また、会話にはタイミングも大事だそうです。症状が出て感情的になっているときではなく、落ち着いて話を聞けるときに「あなたを助けたいのよ」というメッセージを届けます。そして、いいことを言った瞬間に、にっこり笑い、その言葉を待っていたんだとばかりに喜んであげる。それが、本人の行動を変えていくうえで「ごほうび」として、効果的な役割を果たすのだそうです。
行動療法は、患者さん本人が自発的に変わっていく方向を目指します。強迫性障害では、強迫儀式を減らしていく方向に、本人が向かっていくようにします。そのとき、家族は、本人が強迫儀式を行っているときには注目をしないことが大事だそうです。儀式行為に注目したり、叱責したりすると、儀式行為がかえって強くなってしまうことがあるからです。
逆に、儀式行為以外の楽しい行動を増やしていくようにします。たとえば、不潔恐怖の子にとって、プールは自分が汚染されるかもしれない恐ろしい場所だとします。でも、水遊びの楽しさが上回るとしたら? また、地面を転げたボールの汚れを気にする暇がないほど、ゲームの楽しさに夢中になれたら? などと、自分の子どもにもなにかそういうものがないかと考えます。
増やしたいのは健康な行動であり、減らしたいのは、OCDという病気に支配された行動です。OCDに支配された行動を減らすには、健康な行動に注目をしてあげることです。健康な行動の方向に向かうように家族が手伝うことはよいことだそうです。
家族にできる行動療法として、「注目と無視」があります。
親は、子どもの不安を減らしたいと願うものです。しかし、不安はなくならないのだから、筋トレのように負荷をかけて、もっと多くの不安を抱えられるように練習をすることが大事です。徐々にやっていけばうまくいくそうです。
また、子ども自身が自分の将来について不安を抱えなければいけないところを、親が不安の肩代わりをしてしまう場合もあります。そのようなことがないように会話のトレーニングが必要です。
子どもの儀式行為やしてほしくない行動を見てイライラ、ドキドキすることもあるでしょう。しかし、何度も経験することで、だんだん刺激に慣れていきます。不機嫌な子どもの顔を見ても、「今日は不機嫌なのね、でも私の楽しみとは関係ない」と、自分と切り離してやり過ごせるようになるためには、刺激にさらされることも必要だそうです。
§5 第6回市民フォーラム
今回の市民フォーラムでは、2人の先生からお話がありました。
1 『児童期のOCD』
杉山登志郎先生(あいち小児医療保健総合センター 保健センター長・心療科部長)
発達障害は、従来の精神医療ではあまりきちんと識別されていませんでしたが、識別をきちんと行うと、発達障害が基盤にあって強迫症状があるケースが予想外に多いことがわかってきました。また、そのようなケースは、従来の精神療法があまり効かない場合が多いとのことです。
自閉症障害によるこだわり行動と、強迫性障害のためのこだわり行動の区別が難しいケースもあるそうです。また、チックやトゥレット障害と強迫性障害の鑑別も難しい場合があるそうです。その他、摂食障害、解離性障害、対人恐怖、虐待、いじめが関連する場合についてもお話がありました。
2 『人の中で治す 強迫性障害の集団療法』
原井宏明先生(なごやメンタルクリニック院長)
原井先生が院長のなごやメンタルクリニックでは、OCDの集団治療プログラムを行っています。現在、年間100人ぐらいの患者さんが新しく受診しています。以前は患者さん1人の治療にもっと時間がかかっていましたが、現在では、だいたい6週間から8週間で、症状を半分まで軽減できるようになっています。
集団治療は、3人から7人のグループで行います。みんなの前で、一番自分が恐れている、嫌なことをします。家での宿題もあります。「1人ではできないことが、グループの中だからできた」という感想が多いそうです。そして、治った人が、今度は自然に、仲間をサポートする立場になっていくそうです。
●参考リンク
OCDの会
原井宏明の情報公開
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